相続した不動産を時効取得できるのか?時効取得できる要件や時効取得までの流れを徹底解説!
相続した不動産は自分の所有物として扱っているものの、法的にはきちんと手続きが完了していないケースがあります。相続が発生した際には名義変更や相続登記が必要ですが、さまざまな事情で放置されてしまうことも少なくありません。
しかし、一定の要件を満たして長期間にわたり不動産を占有し続けた場合、取得時効を主張できる可能性があります。これは法的に正式な手続きを経ないまま占有し続けていても、占有の状態や期間によっては真の権利が認められる制度です。
本記事では、相続した不動産を時効取得できる際の要件と、その具体的な流れを分かりやすく解説します。あわせて、相続時に発生し得るさまざまな時効についても確認し、将来的に権利を行使できなくなるリスクを回避するための基礎知識を身につけましょう。
1 取得時効とは
まずは取得時効という制度がどのようなものなのか、その概要を理解することが大切です。
取得時効とは、一定期間にわたり他人の物を占有し、要件を満たすことで法律上その物の所有権を取得できる制度をいいます。本来は真の所有者に帰属すべき権利が、長期間にわたって平穏かつ公然に占有されることで、所有権を取得することを認めるものです。
相続した不動産は名義変更が完了していない場合、第三者から見ると真の所有者が誰かあいまいになることがあります。そんなとき、客観的に見て所有者と区別のつかない形で長期間にわたり使用し、管理していると、最終的に取得時効を主張して所有権を得る可能性が生まれます。
もっとも、取得時効が成立するには法律で定められた厳格な要件をクリアし、しかるべき手続きを経る必要があります。相続トラブルを避けるためにも、その仕組みを正しく把握しておくことが大切です。
2 相続に関する主な「時効」
相続には、不動産の取得時効以外にもさまざまな時効や期限が存在します。
相続では、不動産だけでなく金銭債権や税金の支払い義務など、多様な権利と義務が引き継がれます。これらについては、それぞれにタイムリミットに相当する時効が定められており、その期限を過ぎると権利が消滅したり、逆に税金の支払いに追加負担が生じる場合があります。
取得時効のように長期的な占有が問題になるものから、相続税申告のように短期的に対応すべきものまで幅広いケースがあるのが特徴です。具体的な期間を把握せずに放置してしまうと、大切な財産の管理や権利行使ができなくなるおそれがあります。
以下では相続でも特に注意が必要な主な権利や債権について、その時効期間を確認します。どの権利も一度時効にかかると回復が難しいため、相続が発生したら早めに対処することが大切です。
(1) 遺留分侵害額請求権の時効は1年または10年
遺留分侵害額請求権は、遺言によって自分の相続分が侵害されたときに請求できる権利です。まず遺留分の侵害を知った時から1年経過すると、遺留分の請求ができなくなります。仮に全く知らなかった場合でも、相続開始から10年経てば時効となるため非常に注意が必要です。
多くの場合、相続が発生すると遺言の内容が開示されるため、遺留分の侵害を知るタイミングは早いでしょう。しかし、親族間の関係が複雑であったり、遺言の存在自体を把握していないケースもあります。こうした場合は、いつ遺言を知ったのかを明確にしておかないと、知らないまま時効を迎えてしまうリスクが高まります。
遺留分侵害額請求を考慮する場合は、相続が発生した段階で速やかに内容証明郵便などの形で権利行使する意思表示を行ったり、専門家に相談するなど、早期に情報収集と手続きを行うことが望ましいです。
(2)相続した債権の時効は5年または10年
債権 相続 時効を考えるとき、2020年4月の民法改正以降は債権の消滅時効が「債権者が権利を行使できることを知った時から5年」または「債権が発生した時から10年」のいずれか早い方と定められました。これにより、相続によって引き継いだ債権が発生時期によっては、従来の時効期間と異なるケースもあります。
たとえば被相続人が貸金債権を持っていた場合、その貸金契約の成立時期が古いほど、時効消滅が近い可能性があります。債権を相続した人は、まず現在の時効期間を正確に確認し、期限が迫っている場合は対処法として直ちに回収や時効の中断措置(内容証明郵便の送付など)を行うことが重要です。
相続した債権を放置すると、債務者が返済に応じないまま時効が完成する場合があります。相続の対象は不動産や預貯金だけではなく、このような金銭債権も含まれるため、時間経過による権利喪失を防ぐには、適切な管理と早めの行動が必要不可欠です。
(3)相続回復請求権の時効は5年または20年
相続回復請求権とは、真の相続人が相続分を侵害されたときに、その回復を求めるための権利です。この権利は、相続人が相続権を侵害されたことを知ったときから5年、または相続開始から20年で時効が完成します。
相続財産の一部を他の親族や第三者に勝手に処分されていた場合など、遺留分とは別の観点から自分の相続権を主張しなければならないことがあります。ただし、長期間行使しなかったり、気づかなかったりすると権利を失う場合があるため、早期に事実を確認するプロセスが重要です。
とりわけ、相続開始直後は戸籍謄本の収集や遺産分割協議など多くの手続きが重なりますが、相続財産の範囲を把握する際に、侵害の有無もしっかり調査し、時効期限が切れる前に行動することが求められます。
(4)相続税の徴収権の時効は5年
相続税に関しては、税務署が持つ相続税の徴収権に5年という時効期間が設定されています。具体的には法定納期限から5年で徴収できなくなるのが原則ですが、偽りの申告や隠ぺいがあった場合には時効期間が延長されることがあります。
相続税は申告期限が相続開始から10カ月以内と定められており、この期限を守らないと加算税や延滞税が発生する可能性があります。納付を怠ったまま5年を過ぎると、一部のケースでは税務署側の徴収権が消滅する場合がありますが、あえて放置するとペナルティが重くなるリスクがあるため、現実的には避けるべきでしょう。
期限を守った申告と納税を行い、必要書類をそろえた状態で税務署のチェックを受けるのが基本的な流れです。相続税の時効を期待するよりも、正確な申告と確実な納税が安全な方法といえます。
3 取得時効の要件
相続した不動産を取得時効で確実に自分のものにするためには、次のような要件を満たさなければなりません。
取得時効が認められるためには、民法上いくつかの厳格な条件があります。これらの条件を満たさない限りは、いくら長い期間占有していても“要件不備”とみなされ、時効取得は成立しません。単に長年住んでいたからといって、自動的に所有権を得られるわけではない点に注意が必要です。
特に、占有の仕方が平穏且つ公然でなければならないという要件は重要です。トラブルや紛争が絶えない状態では、所有の意思を社会的に証明しにくくなるため、時効取得が認められないリスクが高まります。逆にいえば、周囲から見ても真の所有者と認められるような形での使用が続けば、時効完成に近づきます。
また、必要な占有期間は原則20年と長期なので、その間に利用や管理の実態がきちんと記録されていることも望ましいです。権利が不安定なまま放置せず、法的にもはっきりさせたいなら、専門家と相談しながら証拠の整理を進めましょう。
(1)所有の意思があること
所有の意思とは、単に利用しているだけでなく、あたかも自分がその不動産の真の所有者であるかのように扱い続けることを指します。たとえば固定資産税を支払っていたり、必要な修繕費を負担し続けていたりすると、社会から見ても所有者として振る舞っていると判断されやすくなります。
一方で、借地や賃貸などによる使用であった場合、基本的には所有の意思を立証するのは難しくなります。契約に基づいて使用しているだけなので、いかに長期間住んでいても、時効取得の成立は期待できません。
所有の意思を証明しようとする際は、なるべく領収書や税金の納付記録など、客観的に自分が管理主体であることを示す資料をそろえるとよいでしょう。
(2)平穏かつ公然と占有していること
平穏かつ公然とは、暴力や威迫による占有でないことと、一般人が見ても隠し立てのない状態で占有していることを意味します。相続した不動産を近隣住民も含めて誰が使用しているのか明示されており、所有者として何の疑問もなく受け入れられているなら、この要件を満たしやすくなります。
もし不動産の利用に関して近い親族と長年トラブルを抱えていたり、訴訟沙汰がたびたび起きたりした場合は、平穏とも公然ともいえない占有とみなされる可能性があります。その場合は時効取得の要件をクリアするのが難しくなるでしょう。
また、公然と占有していることを示すためにも、法定手続きや登記など、公的な記録に自分が管理者であることを記しておくことも有効です。周囲から強い疑問や異議が出ない占有状態を保つことが大切です。
(3)20年間占有していること
民法上、原則として20年間の継続した占有が必要とされています。短期間の占有は取得時効の対象にならず、長期の継続性が要求される点が特徴です。仮に占有を途中で中断させられたり、他人に譲ってしまったりすると、その分だけ時効期間がリセットされる可能性があります。
占有を途切れさせないためには、相続人自身が住み続けるか、あるいは第三者に貸すにしても所有者としての立場を明確にするなど、管理実態と記録の両面を徹底しておくことが求められます。
20年と聞くと非常に長く感じますが、気づかないうちに経過することもあります。ただし、法的に時効を主張するにはきちんと確定手続きを行う必要があるため、期間満了が近づいてきたら早めに専門家に相談するのが得策です。
4 相続した不動産を時効により取得できない場合
相続で承継した不動産だからといって、必ずしも取得時効が認められるとは限りません。
実際には、親が賃貸契約で借りていた物件を相続人がそのまま住み続けているケースなど、単に借りていた状態に過ぎない場合もあります。この場合は、相続人が名義上も権利上も正当な所有者ではなかったため、時効取得の対象にならないのです。
ほかにも、同居家族が所有していた不動産を相続人が半ば当然に使っていただけの場合、借地借家とは違うものの、所有の意思を証明しにくい状況になる場合があります。使用実態があいまいなままでは、平穏かつ公然らしい占有を立証できず、結果として時効の成立が否定されることもあり得ます。
相続した不動産を将来的に取得時効で確保したいのであれば、そもそも所有権がどこにあるのか、賃借人として使用していた形跡はないかなど、正確に把握するのが重要です。
不動産は親が借りていたにすぎない場合
賃貸契約で借りていた不動産は、所有権が大家や管理会社にあるため、相続によっても占有権を所有権へ変換することはできません。あくまで賃借人の地位を承継できるにとどまるので、時効取得の余地はないと考えられます。
時効取得を目指すには、まず賃貸借契約が終了していることや、名義変更がなされていないことなどを明確に区別する必要があります。大家との契約が継続しているのであれば、占有の意思が「所有」ではなく「借りている」にすぎない状態となるからです。
もし相続後も賃料を支払っている場合には、所有の意思は証明できません。賃貸借契約の存在が続く限り、時効取得は不可能となるので、この点は早い段階で確認しておきましょう。
5 時効取得までの流れ
いざ時効取得を主張する際には、法律上の手続きや相手方との交渉が必要になります。
占有期間が20年に達したとしても、自動的に所有権が変更されるわけではありません。時効を完成させるためには、時効援用の意思表示といった明確な行動が欠かせないのです。
さらに、不動産の登記を移転するには、権利者同士で共同申請を行うのが基本ですが、相手方の協力が得られない場合には裁判手続きにもつれ込むことがあります。取得時効の成立自体を争われるケースもあるため、事前の準備をしっかり行いましょう。
以下では、時効取得に向けた典型的な手続きを紹介します。いずれのステップでも書類の不備や証拠不足が障壁になる可能性があるので、慎重に進めることが大切です。
(1)時効援用の意思表示
時効の完成を主張するには、相手方に対して責任ある形で時効を援用する意思を告知する必要があります。通常は内容証明郵便などで「私は取得時効を主張します」という旨を伝えることが一般的な方法です。
この意思表示によって初めて、占有期間が満了した事実が法律上の効力を持つ形で主張できるようになります。もし、時効がすでに完成していても、援用をしなければ所有権は確定しないので注意が必要です。
時効完成時期や占有状態の記録など、具体的な根拠を示す証拠を一緒に提示することで、相手方からの反論を抑止したり、スムーズに交渉を進めたりする効果が期待できます。
(2)登記の共同申請
相手方が時効取得を認める場合は、当事者双方で登記移転手続きを共同申請することが可能です。協力して手続きを進めることで、比較的短期間で新しい名義へと変更できます。
しかし、相続で複数の共有者が存在する場合などは、全員の合意を得る必要があるため、手続きが複雑化することがあります。また、相手方が取得時効に納得しない場合は、共同申請が成立しないこともあり、その場合には裁判手続きを視野に入れる必要があります。
共同申請がスムーズに運ぶようにするには、占有実態を裏付ける証拠や書類を整理して提示することが大切です。合意形成が難しければ、弁護士や司法書士といった専門家のサポートを受けるのが望ましいでしょう。
(3)所有権移転登記請求訴訟の提起
相手方がまったく協力に応じない場合や、時効取得自体を否定される場合は、裁判所で訴訟を起こす必要があります。所有権移転登記請求訴訟を提起して、時効取得の成立を証明することで、裁判所から権利が認められれば登記を移すことができます。
訴訟では、占有の平穏性や公然性、期間など、先に述べた要件を満たしているか否かが争点となります。残念ながら、証拠不十分だと敗訴する可能性があるため、事前に自分の占有実態がどの程度立証できるのかをしっかり検討することが大切です。
裁判手続きには時間と費用がかかるため、できる限り相手方との話し合いで共同申請を目指すほうが望ましいケースもあります。しかし、どうしても話がまとまらない場合は、法的手段に頼るしかありません。
6 まとめ
相続した不動産を取得時効で正式に自分の所有物にするためには、要件や手続きをよく理解して対応しなければなりません。
取得時効は長年の占有を法的に評価し、実質的な所有状態を守る制度です。しかし、占有期間の長さや平穏性、公然性といった要件をすべて満たす必要があり、それらを客観的に証明する資料の準備も欠かせません。
また、相続した不動産には債権や相続税などの時効が絡んでくる場合があります。それぞれの時効期間や手続きについて正しく理解していないと、思わぬ損失を被ったり、権利を失ったりするリスクがあるため注意が必要です。
相続問題は家族間の意向が複雑に絡み合うことも多く、法的知識が不十分だとトラブルが拡大する可能性もあります。疑問があれば早めに専門家へ相談し、適切なステップを踏んで確実に権利保全を進めていきましょう。

