被相続人とは？意味から相続手続きの流れまで詳しく解説

相続手続きを進める際に頻出する用語として「被相続人」がありますが、正確な意味を把握できていない方も少なくありません。本記事では、被相続人と相続人の定義や法定相続人の範囲、遺言書の活用方法、生前にできる対策など、スムーズな相続に必要な知識をわかりやすく解説します。

相続は、亡くなった方から財産を受け継ぐ行為を指しますが、現金や不動産などの積極財産だけでなく、借金などの消極財産も対象となるため、理解しておくべき幅広い制度や手順があります。特に被相続人や相続人の正確な定義を把握しておかないと、後々の手続きで混乱が生じる可能性があります。

本記事では、負担を大きくしがちな相続手続きをできるだけ円滑に行うためのポイントを、初心者にも分かりやすい形で整理しました。法定相続人の範囲や順位、遺言書と遺留分の関係、生前贈与や家族信託の活用方法など、多角的な視点から相続を捉え、トラブルを防ぐための基本的な考え方を確認していきましょう。

1. 被相続人と相続人の基本的な違い

相続の基礎を理解するためには、まず被相続人と相続人という用語の違いを把握しておくことが重要です。

相続に関連する手続きを進めるうえで最初につまずきやすいのが、用語そのものの意味の違いです。被相続人は相続財産を遺す立場、相続人はそれを引き継ぐ立場という構図が基本にあります。両者の区別が曖昧なままだと、書類作成や専門家への相談時に誤解が生じやすく、思わぬ手続きの遅延に繋がる恐れがあります。

被相続人の財産は、積極財産だけでなく消極財産も含まれるため、相続の段階でその全貌を把握しておくことが大切です。特に債務や借金がある場合、相続人がどの程度その負担を負うのかを早めに確認しておかないと、相続放棄や限定承認といった選択肢を適切な期間内に行使できなくなります。

逆に相続人の立場から見ると、誰が法定相続人に該当するかを明確にしておくことで、手続き全体を大きく円滑化できます。正確な相続人の確定は少し時間がかかる場合もありますが、後々のトラブルを防ぐためにも不可欠なプロセスといえるでしょう。

被相続人とは：相続財産を遺す人

被相続人とは、一般的に亡くなった方を指し、財産や権利、債務といった相続対象を残す立場の人を意味します。相続が開始するきっかけとなるのは、被相続人の死亡であり、この瞬間に相続人が具体的な手続きへと進むことになります。被相続人が残した財産には、不動産や預貯金、株式に加え、借金などの負債も含まれるため、相続する側の負担を考慮するうえでも理解しておきたい概念です。

相続人とは：被相続人の財産を受け継ぐ人

相続人は、被相続人が所有していた財産や権利義務を受け継ぐ人を指します。民法で定められた法定相続人をはじめとして、遺言書による指定があれば、その内容に応じた人物が相続権を得る場合もあります。相続人としての地位は、法律により一定の範囲と優先順位が決められているため、正確に自分が該当するかどうかを知ることは相続手続き全体をスムーズに進めるための第一歩です。

2. 法定相続人の範囲と相続順位

相続人となりうる人の範囲や優先順位は民法で厳密に定められています。正しい優先順位を理解することで相続トラブルを避けやすくなります。

法定相続人には大きく分けて、配偶者と血族が含まれます。血族とは、被相続人と親子関係や兄弟姉妹関係など、血の繋がりがある人々を指します。相続のルールは法律で規定されており、どの合意形態を取る場合であっても、この枠組みを大きく逸脱することはできません。

相続順位は、子が第一順位、直系尊属（親や祖父母など）が第二順位、兄弟姉妹が第三順位と定められています。該当する順位の相続人がいれば、下位の順位には相続権が及ばないため、出生や死亡、養子縁組などの情報を正確に把握することが重要です。

特に再婚家庭など、相続人の特定が複雑になりやすいケースでは、あらかじめ法定相続人になりうる人を整理しておくと、余計な争いを回避できます。実際の家族構成に即して確認を行い、必要に応じて専門家に相談することが賢明でしょう。

民法で定められた法定相続人の基本

民法は、相続のルールを定めるうえで基盤となる法律であり、ここで規定される法定相続人がまずは相続権を有します。被相続人の配偶者は常に相続人となる一方、それ以外の血族は順位に応じて相続権を得ることもあります。つまり、法律上の結婚関係がある配偶者と、血族に当たる親族が主な相続対象者として位置づけられるのが基本です。

配偶者の常に優先される地位

配偶者は被相続人の財産を受け継ぐうえで常に優先される地位を持っています。民法上、配偶者だけは必ず相続人としての地位を有し、被相続人の子や親、兄弟姉妹と相続分を分け合う形となります。これは法定相続割合にも大きく影響し、具体的な手続きでは配偶者の取り分を念頭に置いたうえで協議を進めることが大切です。

子・直系尊属・兄弟姉妹の順位

相続順位は法定で定められており、第一順位が子、第二順位が直系尊属、第三順位が兄弟姉妹となります。子が存在している場合には親や兄弟姉妹には相続権が及ばず、子がいなければ直系尊属、直系尊属もいなければ兄弟姉妹が相続権を持つことになる仕組みです。結婚や養子縁組などにより、この順位がどう変わるかを知っておくと、相続財産を巡る争いを起きにくくするうえで役立ちます。

3. 被相続人が残せる意思表示：遺言書の役割

被相続人の最後の意思を明確に示すのが遺言書です。遺産分割や相続のトラブルを防ぐためにも、その種類と注意点を知っておきましょう。

遺言書は、被相続人が自身の死後に財産をどのように分配してほしいかをあらかじめ示すための重要な手段です。法定相続とは異なり、被相続人の意思を尊重して遺産分割を行えるため、家族構成や特定の相続人への配慮など、細かい配分を決める際に有効です。

ただし、遺言書の作成には法律で定められた形式要件があり、自筆証書遺言をはじめとする形式を誤ると無効になるケースも存在します。さらに、遺言書の作成後に家族構成や財産状況が変化した場合は、速やかに書き直す必要がある点にも注意が必要です。

公正証書遺言・自筆証書遺言・秘密証書遺言の違い

公正証書遺言は公証人が作成し、原本が公証役場に保管されるため、安全性が高いといわれています。一方、自筆証書遺言は費用がかからず手軽に作成できるものの、形式不備や保管方法に注意しなければ後に無効になるリスクがあります。秘密証書遺言は内容を公証人にも伏せられる利点がある反面、手続き自体がやや複雑で、一般的にはあまり利用されるケースが少ないのが実情です。

遺留分との関係と注意点

遺留分とは、配偶者や子など特定の法定相続人に最低限保証される権利を指します。遺言書の内容であっても、法定相続人の遺留分を著しく侵害する形となる場合は、後々遺留分額減殺請求などの紛争に発展する可能性があります。被相続人としては、自らの意思で財産を分配したい場合も、遺留分を考慮したうえでバランスの取れた内容にしておくことが望ましいでしょう。

4. 被相続人の生前にできる対策

相続トラブルを防ぐためには、生前から対策を行うことが大切です。代表的な手段として生前贈与や家族信託が挙げられます。

トラブルを最小限にするためには、生前のうちから計画的に財産を分配する方法を検討しておくことが重要です。相続税の軽減や、特定の相続人に重点的に資産を引き継ぎたい場合など、個々のニーズに合った対策を組み合わせることで、相続開始後の混乱を避けやすくなるでしょう。

事前の対策としては、贈与税との兼ね合いにも注意が必要です。毎年の贈与限度額を上手く活用することで、相続財産を段階的に減らし、相続税の負担を軽減する生前贈与を採用するケースは少なくありません。一方、家族信託は財産管理の柔軟性を高めるため、より包括的な対策として利用されることも増えています。

生前贈与の活用方法

生前贈与では、毎年110万円までの贈与については贈与税がかからない非課税枠を活用できます。これを長期的に行うことで、時間をかけて財産を移転し、その分の相続税を将来的に抑える効果が期待できます。ただし、贈与の事実が曖昧にならないように、贈与契約書の作成や受け取りの証拠などをしっかり残しておく必要があります。

家族信託による財産管理

家族信託は、委託者（財産の持ち主）が受託者（信頼する家族など）に財産管理を任せる仕組みで、高齢や病気などによって判断能力が低下した場合でも柔軟な財産運用が可能になります。遺言書では叶えにくい長期的な管理や受益者の指定なども可能なので、認知症リスクへの対策として注目を集めています。ただし、信託契約の締結には専門知識が求められるため、事前に専門家に相談して手続きを進めるのが望ましいでしょう。

5. 相続できないケース：相続欠格・相続廃除・相続放棄

相続人であっても、法律上相続できない場合や自ら相続を放棄できるケースがあります。制度の概要と注意点を押さえておきましょう。

相続には法律により保護されている権利がありますが、一定の場合にはその権利を失う仕組みが存在します。相続欠格や相続廃除は、被相続人に対し極めて重い不法行為を行った場合などに適用され、相続開始後は自動的または審判によって権利が奪われます。

一方、相続放棄は相続人自身が手続きを行う必要があり、基本的には自らに相続開始を知ったときから3カ月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。こうした制度を把握しておくと、多額の借金があるようなケースでメリットがあるだけでなく、困ったトラブルに巻き込まれる可能性を減らすことにも繋がります。

相続欠格とは何か

相続欠格は、法律上重大な違法行為を行った場合に当然に相続権を失うことを指します。具体的には、被相続人を殺害したり、遺言書を偽造・破棄したりする行為が該当します。この場合は、相続開始後の行為判断を待たずとも、刑事処分とは別に相続権を失う仕組みとして機能します。

相続廃除が認められる条件

相続廃除は、被相続人の生前に家庭裁判所へ請求することで、特定の相続人の相続権を失わせる制度です。被相続人に対して虐待を繰り返した場合や、著しく非行がある場合など、民法に規定された厳格な要件を満たす必要があります。ただし、被相続人が遺言書で相続廃除を希望していても、最終的には家庭裁判所の審判を経る必要がある点に留意しなければなりません。

相続放棄の手続きと注意点

相続放棄は、自らに相続開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所で手続きを行うことで、一切の財産や債務の継承を行わない意思を示す方法です。手続きを完了すると、たとえ多額の借金が相続対象に含まれていても、法的に支払い義務を負わなくなります。しかし放棄をすると、一切の財産を受け取れなくなる点には要注意です。また、相続放棄の申述期間は厳密に定められているため、早めに検討する必要があります。

6. 相続人を調べる手順と必要書類

相続トラブルの原因となりやすいのが相続人の確定作業です。計画的な戸籍収集などがスムーズな手続きに繋がります。

誰が法定相続人に該当するのかを正確に把握しないまま進めてしまうと、後になって追加の相続人が見つかり、協議のやり直しが必要になる場合があります。特に法律上の婚姻関係の有無や養子縁組の有無などは、慎重に調べる必要があります。

相続人全員を確定したうえで、遺産分割協議などの手続きを行わないと、手続きや財産の帰属について後々取り消しや修正を余儀なくされるリスクも生じかねません。相続に携わる人が多いほど大変になりますが、戸籍を丁寧にさかのぼって確認する作業が欠かせません。

戸籍の収集と法定相続情報証明制度

被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得することで、法定相続人の有無を正確に確認します。結婚や離婚、それに伴う改姓や養子縁組の記録も重要な手がかりになります。さらに、法定相続情報証明制度を利用すれば、戸籍の束を何度も提出する手間を軽減できるメリットがあります。相続人確定後の各種手続きを効率化するためにも、まずは戸籍収集と証明制度の活用が大切です。

7. 被相続人の相続税対策も考慮しよう

相続には税金が伴う場合があるため、財産の状況によっては早めの相続税対策が必要になります。

相続税は、財産の総額から基礎控除などを差し引いた金額に対してかかる税金です。被相続人の遺した財産が大きい場合、課税対象となる可能性が高まります。そのため、相続開始前にどの程度の財産を所有しているのか、どの程度が控除されるのかを把握しておくことは非常に重要です。

また、生前贈与による財産移転などを計画的に進めたり、納税資金を確保したりすることで、相続開始時の負担を軽減できます。特に不動産が資産の大部分を占める場合は、納税に必要な現金を確保するプランなどを早めに考えておく必要があるでしょう。

基礎控除と課税対象の基本

相続税には、3000万円＋600万円×法定相続人の数という基礎控除額が設けられており、これを超えると課税対象となります。たとえば、法定相続人が2人の場合は、3000万円＋600万円×2＝4200万円を超える財産が課税対象です。預貯金や不動産などを含めた財産総額がどの程度になるか、早めに試算しておくと相続時の混乱を減らせます。

贈与税との関係

生前贈与が相続税対策に有効な場合がある一方で、贈与を受けた側に贈与税が課税される可能性もあります。毎年の非課税枠を利用することで、相続時に残る財産を徐々に減らすことができますが、贈与税が想定外に高額になる場合は逆効果になることも。贈与のタイミングや金額を慎重に検討し、相続税と贈与税のバランスを上手く保つことが大切です。

8. 相続手続きの全体的な流れ

相続手続きには多くのステップがあり、期限が決まっているものもあるため、手順を正しく理解することが重要です。

相続手続きは、被相続人が亡くなった瞬間から始まります。まずは死亡届を役所に提出し、埋葬許可証を取得するなど初期の手続きを踏まえつつ、必要に応じて相続放棄や限定承認の検討を3カ月以内に行う流れが一般的です。次に、遺産分割協議や遺言書の開封などを行い、各相続人の合意のもとで正式に分割方法を決定します。

その後、不動産の名義変更や銀行口座の解約・名義変更などを進めるうえで、多種多様な書類提出が必要となります。これらの期限や提出先を誤ると、余計な費用や時間がかかるだけでなく、相続人同士のトラブルに発展するリスクも高まります。

死亡届・相続放棄期限・遺産分割協議の順序

まずは被相続人が亡くなった後、7日以内に死亡届を提出し、役所で死亡診断書等を確認してもらう必要があります。相続放棄や限定承認は、相続開始を知ってから3カ月以内が申述期限となるため、被相続人の負債状況を素早く把握して意思決定を行うことが大切です。遺産分割協議は、相続人全員が合意することで成立するため、相続人の確定後、可能な限り早い段階で話し合いを進めるとスムーズに運びます。

手続きごとに必要となる書類のチェックリスト

基本的には、死亡診断書等や戸籍謄本、印鑑証明書、遺産分割協議書などが主要な書類となります。不動産の相続登記には、法定相続情報証明書の利用が便利です。さらに、銀行口座の手続きでは通帳やキャッシュカードのほか、金融機関ごとに指定された書類が求められる場合があるため、事前にチェックリストを作成しておくのが賢明です。